オタクを卒業した話

 好きなアニメを三つ挙げるなら選ぶ『僕らはみんな河合荘』『響け!ユーフォニアム』『氷菓』。この三つの聖地巡礼を行ったらオタクをやめようと考えていた。小説を愛しすぎるためか近頃はシナリオ厨になっており、物語の軸がしっかりしていない作品を受用する機能が壊死してしまった。今のトレンドである転生ジャンプを楽しむことは到底叶わず、老害かのように「最近の作品は話がつまらん」と思う日々。アニメは無理して楽しむものでもないと当たり前の発想に至り、キリを見つけてオタクをやめると心に決めた。

 

 そもそもオタクになったのは10年前の2014年の4月、当時は夜更かしに憧れ適当にテレビを見ていたときに偶然『僕らはみんな河合荘』を観た偶然からアニメに興味を持つようになった。その後は原作小説からとても好きだった『氷菓』と、吹奏楽部オタクにクリティカルヒットした『ユーフォ』と偶然ではあるが二つの京アニ作品が特に心に刺さり、順調にオタク道を歩んでいた。

 また20144月には同時に『ごちうさ』を知ったことできらら・日常系にドハマりし、しっかりキモいオタクへと歩みを進めることとなった。内容の濃い純文学とは正反対で頭がからっぽっでも楽しめる日常系は意外と相性がよく、きららはほぼ全てのアニメ化作品の原作を揃えるまでにハマることになった。

 

 この間も小説の読書量は順調であり年間100冊はキープしていたと思う。そして高校時代のある日、ある種の悟りを得たことで、小説とアニメが同じ土俵に立つことになり一つ自分の中のオタク像が確立した。

「自分は広義の物語に触れることが生きがいであり、常にコンテンツを摂取することが楽しみである」

 この結果小説を生きがいにしいていることからか軸のシナリオが面白くない作品を楽しむことは叶わず、ラノベ原作やジャンプ系は今でもほとんどの作品を避けているし観る気もない。残念なことに今のトレンドは面白いが優先され良いアニメはほとんどない。ラノベ原作となろうに溢れただでさえアニメモチベが下がる中、数少ないアニオリ作品だ!と期待した『ワンダーエッグ・プライオリティ』と『リコリス・リコイル』がともに結末がカスだったことで完全に心が折れた。「俺に相応しいアニメがない」ではなく「俺がアニメに相応しくない」と突きつけられ、自然とオタクを辞めようと思った。

 

 時間は少し遡り、大学に入ってからはエロゲにも手を広げいわゆるシナリオゲーにお熱となりコロナ禍の1,2年生のときは毎日プレイしていた。シナリオを売りにしているだけあってある程度好みの作品に出会えるとの予想もつきやすく、エロゲも物語の摂取の手段として重宝するようになった。登校解禁後は大学のある水道橋が秋葉原に近いことが本当にありがたく、予約をして発売日に買いに行くようにもなっていた。この頃はオタク趣味が一生ものになると信じていたため、住むなら秋葉原に通える距離がいいと本気で考えていた。

 そしていざ就活が始まるとアニメやエロゲを楽しむ時間が減り、代わりにより手軽な小説の読書量が一気に増えた。アニメに見切りをつけ始めたことと重なり、場所と時間を選ばない小説は物語摂取には最適であり、この時期は月10冊程度読んでいたし2023年は結果的に400冊ぐらい読んだ。就活が終わった後もオタク趣味に戻る気は起きず、何より就職先が北海道のド田舎になったことで完全にオタクへ趣味の未練がなくなった。

 

 オタクを卒業するにあたり、どうしても好きな三つの作品の聖地巡礼はしたかった。『ユーフォ』は昨年の夏に京都宇治へ旅行していたため、卒業旅行として3月に岐阜旅行で残り二つの聖地巡礼をして卒業式をすることを決めた。偶然だが始まりの『河合荘』からちょうど10年後である。旅行は最高に面白く、『氷菓』は高山市が主催する聖地巡礼のスタンプラリーに参加してウキウキで巡り、『河合荘』ではレンタサイクルで岐阜市内を走り回り、作品への思い入れが強すぎるあまり舞台の長良川で感動して泣きそうにもなった。

 こうしてオタク卒業式を終え、今は北海道のド田舎に引っ越しした。街に書店はなくネット注文に頼るしかなく、近くのアニメイト駿河屋は4時間先の札幌だしソフマップは北海道に存在しない。今後秋葉原にはおそらく行くことはないだろうから、アニメショップにも行くことはない。もちろんオタクは全国どこにでも存在しているが、今更オタク復帰しようとは思わない。引っ越しの際に大量の漫画とエロゲを手放したことも踏ん切りをつける良い機会となった。さらば青春の光

 

 ただ、これを書いている4/7の夕方からは『ユーフォ』3期が始まるし、夏に放送される『氷菓』と同じ米澤穂信作品が原作の『小市民』シリーズは絶対に観ようと思う。『河合荘』の原作とほか幾つかの漫画は北海道にも持ってきたし、エロゲも『殻ノ少女』シリーズ『ととの』『white album2』の三つは手放さなかった。これからも気になるアニメがあったらその都度観ようとは思うし、配信サービスで様々なアニメを観るだろう。アニソンも聴き続けるつもりだ。

 それでも、もう決してオタクではない。惰性になろうと毎クールごとに作品をチェックしたり、アニメを観ながらTwitterにどんな感想を書こうか悩むことはもうしない。自分の好みを世間のトレンドが一致しないことにモヤモヤしないし、マイナー作品を知っている自分に自惚れを感じることはしない。人気声優の結婚に驚くこともないし、ホンモノのオタクの言動に冷笑することもしない。これからもオタクであり続ける人たちに、オタクであった昔の自分に別れを告げ、マイクを舞台に置き普通の人間に戻ります。